沈黙のスパイラルを破る:あなたが知らないかもしれない「89%」

もし、あなたの周りのほとんどの人が、静かに「もっと気候変動対策を強化してほしい」と思っているのに、それに気づいていなかったら――? これは2025年4月に始まった国際的なジャーナリズムの取り組み「The 89 Percent Project」が提示する問いです。このプロジェクトの元になった調査は125カ国を対象に行われ、世界人口の80〜89%が、自国政府により強い気候変動対策を求めていることがわかりました。

しかし問題は、多くの人が自分がその大多数の一員であることを知らない、ということです。多くの人が「自分は少数派で、影響力がない」と思い込んでいます。行動科学ではこれを**多元的無知(pluralistic ignorance)**と呼びます。周囲が関心を持っていないと思えば、自分も声を上げなくなり、その沈黙が問題を見えなくしてしまいます。

日本の場合

日本では、**87%の人が「より強力な気候変動対策を望む」と答えています。これは10人中ほぼ9人に相当し、世界平均とほぼ同じ高さです。

しかし、日常会話の中で気候変動が話題になることはあまりありません。2023年にロイター・ジャーナリズム研究所が行った調査によると、日本では29%**の人が「友人や家族と気候変動について話したことがない」と答えており、これは世界平均の11%を大きく上回っています。身近な人との間でこの話題がほとんど出なければ、「関心を持っている人は少ないのだろう」と思い込みがちです。

政治の世界でも、この関心はあまり可視化されていません。2025年7月の衆議院選挙では、気候変動はほとんど議題に上がらず、移民問題や経済政策が大きく取り上げられました。投票者のほぼ9割にとって重要なはずのテーマが、主要な演説やテレビ討論から姿を消していたのです。

アジアの他の国々を見ても状況は非常に似ており、多くの国で気候変動対策を支持する割合は80%台半ばから後半に達しています。つまり、気候変動への関心は「主流派」であるだけでなく、地域によってはほぼ全員が共有する価値観となっています。比較として、米国は調査対象国の中でも低い方で**74%**ですが、それでも強い多数派であることに変わりはありません。

出典:Globally representative evidence on the actual and perceived support for climate action, Nature, 2024

なぜこの「ギャップ」が重要なのか

世論と日常的な会話との間にあるこのミスマッチは、放っておくと悪循環になります。政治家や同僚、友人が気候変動について話すのを聞く機会がなければ、それは優先度が低い問題だと思い込みます。そして少数派だと思えば、自分から話題にすることもなくなります。

この「思い込み」の影響は非常に大きいことが、行動科学の研究からもわかっています。The 89 Percent Projectの元になった調査では、**世界の69%**が「所得の1%を気候変動対策に寄付してもよい」と答えました。しかし「他の人も同じように寄付すると思うか」と尋ねると、その割合を大きく低く見積もっていたのです。実際には大多数が行動する準備ができているのに、その誤解が行動を妨げています。

沈黙を破るために

では、この認識のギャップをどう埋めるか。一つの方法は「自分は一人ではない」と実感できる場をつくることです。ここで役立つのがクライメートフレスクのようなワークショップです。

クライメートフレスクは、科学的根拠に基づくカードを使って、数時間で気候変動の仕組みを学べる協働型ワークショップです。講義ではなく、参加者同士が小グループで原因と結果のつながりを整理し、意見や感情を共有しながら解決策を話し合います。

その過程で生まれる副次的な効果があります。それは「関心の可視化」です。これまで「自分だけが気候変動を気にしている」と思っていた人が、他の人も同じように考えていると知るのです。多くの参加者が「自分は一人じゃなかった」と気づいたと教えてくれます。

こうした経験は重要です。自分が多数派だとわかれば、職場や地域社会、そして投票所でも声を上げやすくなります。

87%を行動に変えるために

日本の87%という数字は、大いに誇るべきものです。しかし、数字だけでは政策は変わりません。必要なのは「可視化」と「つながり」です。周囲の人も同じ思いを持っていると知れば、意思決定者も無視できなくなります。

The 89 Percent Projectのような取り組みと、クライメートフレスクのような双方向型ワークショップは相互補完の関係にあります。前者は「静かな多数派」の規模を示し、後者はそれを「声を上げる自信ある多数派」に変えていきます。

その感覚を味わってみたい方は、ぜひワークショップにご参加ください(最新の開催予定はこちら)。友人や同僚と一緒に、まずは会話から始めましょう。驚くほど多くの人が、あなたと同じように立ち上がる準備をしています。そして、私たちはすでに「転換点」にかなり近づいているのです。

いちごブルームは、気候変動と生物多様性のコラボレーション・ワークショップ「クライメートフレスク」や「バイオダイバーシティコラージュ」を開催し、組織内の意識向上と変革のきっかけを提供しています。