チャリティ音楽イベントシリーズの作り方:「Too Hot to Be Cool」2年間の軌跡から学ぶこと

2024年4月、渋谷の小さな音楽バーで、ひとつのロックイベントが開かれ、バンド5組、50枚のチケット、売上は全額環境NPOへ寄付されました。一見すると特筆すべき点のないイベントでしたが、これは後に継続的かつ成長を続けることになるシリーズの第1回目だったのです。2年、8回の開催を経て、Too Hot to Be Cool(トゥー・ホット・トゥ・ビー・クール)は延べ33組のバンドをステージに迎え、710枚のチケットを販売し、ベトナム・フィリピン・タイ・マレーシア・インドネシアの若者主導の気候系NPOに約150万円を寄付してきました。すべてボランティア運営。すべてチケット収益だけで成り立っている。2026年4月、ファウンダーのステファン・ルデュは、このシリーズの歩みと教訓をNerd Nite Tokyoでのトークとして発表した。本記事はそのトークのまとめである。スライドはこちら。
免責事項:Too Hot to Be CoolとIchigo Bloomは、同じ人物が立ち上げたプロジェクトです。

2018年11月、ステファンは東京の映画館でボヘミアン・ラプソディを鑑賞しました。映画はクイーンの「ライブ・エイド」での演奏で幕を閉じる。1985年、アフリカの飢饉支援のために開かれた大規模なチャリティコンサートだ。映画館を出ながら、彼はふと思った。「気候変動のために、東京で同じようなことをやってみたらどうだろう?」

そのアイデアの規模は「ライブ・エイド」のウェンブリー・スタジアムとは程遠い、渋谷の小さなライブハウスで行うという、控えめな物でした。数組のバンド、ひとつの大義、集まった観客。少し資金を集めて、音を鳴らす。そのくらいでいい。

しかしその後、別のプロジェクトが優先され、アイデアは頭の片隅に追いやられた。そしてコロナ禍が来て、完全に封印された。日本のライブ音楽シーンは、およそ3年間にわたってほぼ停止状態に置かれた。

転機が訪れたのは2023年11月のことだった。新宿で開かれたドラァグショーのチャリティイベント「Queens for a Cause」を観たとき、何かがはじけた。「このショーを観ながら思った。これはできる。実際に機能している。考えすぎるのをやめて、とにかく始めよう」とStéfanは振り返る。2024年1月、彼は決断し、同年4月、Too Hot to Be Cool第1回が実現しました。


コンセプト:意図的にシンプルに

Too Hot to Be Coolは、東京を拠点とするボランティア運営のロックイベントシリーズだ。チケット収益から会場費を差し引いた全額を、東南アジアの若者主導の気候系NPOに寄付する。給与なし、エージェント手数料なし、複雑な仕組みなし。「会場費」と「チケットの販売可能数(キャパシティ)」のバランスが、そのまま寄付できる金額になるという計算です。

Ichigo Bloomは第1回から関わり、各回の運営サポートと気候変動に関する教育コンテンツを提供してきた。


レシピ:11のステップ

1. 会場を見つける

ボランティア運営のイベントにおいて、実質的なコストは会場費だけだ。すべてはここにかかっている。THTBCが最初に選んだのは、渋谷の小さな音楽バーRuby Room。Stéfanが自分のバンドで何度も出演したことのある、顔なじみの場所だった。スタッフとの関係があったため、レンタル料の割引も交渉できた。「まず小さく始める。自分がよく知っている場所を選ぶ。そしてコネを活かすことを遠慮しない」東京ドームは「いつか」でいいのです。

2. 最初の出演者を見つける

第1回のラインナップは、ほぼすべて既存の人間関係から集まった。自分のバンド、オープンマイクで出会ったバンド、友人からの紹介、元バンドメンバーの新しいプロジェクト。「実績のないイベントにノーギャラで出てくれと、見知らぬ人に頼んでも、なかなかOKはもらえない。でも友人は来てくれる。」自分のネットワークが、最初のラインナップになる。

3. クルーを集める

報酬はない。楽しいから手伝う、という人間が必要だ。THTBCは3人でスタートした。Stéfanが全体の取りまとめ、かおりが日本語MC、Charlesが技術担当と物流全般。その後CharlesがさらにふたりをつれてきたーーLisaが英語MC、Yoshikiが写真担当として加わった。「20人も要らない。10人も要らない。2〜3人の信頼できる人間から始めればいい。友人だからという理由だけで起用するのではなく、その役割に合っているかどうかを見ること。」

4. . 覚悟を決め、周りに支えてもらう

バンドが決まり、クルーが揃い、チケットが売れた時点で、あなたはもうコミットしています。そのコミットメントは、人生が思い通りにいかない時の安全網に。「第1回の直前、すべてをキャンセルしようと思った瞬間があった。でもバンドは準備できていた、クルーも準備できていた、チケットは完売していた。だから続けた。本当によかったと思っている。」早い段階で他の人を巻き込む最大の理由は、自分が前に進めないとき、彼らが支えてくれるからです。

5. 幕を開ける—細部への目配り

第1回は、あなたの最高傑作ではない。最高傑作の土台だ。THTBC1にはいくつかの問題があった。あるバンドがドラマーもベーシストもいない状態でサウンドチェックに現れた。バンド転換の合間に流した気候変動の教育映像は、ほとんど誰にも見てもらえなかった。会場のキャパシティも見誤っていた。「すべてメモした。それが第2回の改善点になった。」

6. 支援先を慎重に選ぶ

THTBC1の寄付先はWWF Japan—知名度があり、わかりやすい選択に見えました。しかし現実はそうではありませんでした。WWFはイベントへのロゴ使用を断り、パートナーシップへの熱意もあまりないように感じた。「私たちの寄付は、彼らにとって見えないくらい小さなものだったのでしょう。THTBC2からは、東南アジアの若者主導のNPOに切り替えまし。違いは歴然でした。心から喜んでくれて、イベントをコミュニティに広め、観客へのビデオメッセージを送ってくれる団体もありました。」自分たちを必要としてくれるパートナーを選ぶこと。

THTBCがこれまで支援してきた東南アジアのNPO:Youth Climate Action Network Vietnam、For The Future Philippines、Green Youth Thailand、Klima Action Malaysia、Green Welfare Indonesia、Kids for Kids Philippines、Save the Children Indonesia。

7. 出演者の幅を広げる

THTBC2から、知人の輪の外へ手を伸ばすことが必要になった—そして、それは思いのほか謙虚な経験でした。返信率は大きく下がり、丁寧に断るバンドもいれば、何度連絡しても無視されることも多かった。「大切な大義だからといって、誰もが関心を持つわけではない。それを学んだ。でも諦めずに声をかけ続けることで、ちゃんと見つかる。」東京のインディーズロックシーンは、多くの人が思うよりずっと深い。あらゆるジャンルのバンドが、小さな会場で毎晩のように演奏しており、そのシーンはすでにそこにありました。THTBCはただ、そこに接続しただけでした。また、素晴らしいステージを見せてくれて、クルーへの接し方も良く、プロモーションにも協力してくれたバンドを再度招待することも学びました。2024年にRuby Roomのオープンマイクで出会ったガレージロックデュオFUQAは、8回の開催のうち6回出演してくれています。

8. プロモーション—正直に言って、最も困難な作業

各回にかける時間とエネルギーの半分以上が、プロモーションに費やされる。イベントは、まだ自力では売れない。SNSだけでは足りていません。一番効果があるのは、一人ひとりに直接声をかけることです。時間はかかるが、確実に機能します。チケットのほとんどは最後の48時間で売れるため「毎回焦る。少しずつ慣れてはきているけれど、開催2週間前からのストレスは相変わらず大きい。」過去の参加者に口コミをお願いするのも有効です、頼めばほとんどの人が動いてくれるが、頼まなければ動かない。同じ観客層を持つコミュニティ(音楽イベント、サステナビリティ系団体など)横繋がりを拡張することで、新しい層へのリーチとイベントの信頼性向上につながります。

9. レベルアップする

Ruby Room Shibuyaで3回連続、完売を達成した後、THTBCはより大きな会場である7th Floor(渋谷) に移しました。キャパシティは約2倍になりましたが、レンタル費用も大幅に上がりました。結果は示唆に富んでおり、チケット販売数は平均60枚から110枚へとほぼ倍増しましたが、会場費の上昇が収益のほとんどを吸収してしまい、寄付額の増加はわずか25%にとどまりました。規模を拡大することは、見た目ほど単純ではなく、重要な気づきは次の通りです:ボランティア運営のイベントにおいて、ボトルネックになるのはお金ではなく、時間です。クルーの人数は同じ、フライヤーのデザインも一晩あれば可能、バンドへの連絡も一通のメールで済みます。大きな会場は、同じ労力でより大きなインパクトをもたらす—ただし、埋められれば、の話です。

10. 仲間と連携する

継続的に質の高いイベントを続けていると、自分からノックしていないドアが開き始めました。東京のイベント主催者であり、THTBCのプロモーションパートナーでもあるMore Than Musicから、2026年夏の鎌倉ビーチフェスティバルへの参加オファーが届いたのです。英国のフェミニスト系ロックNPO・LOUD WOMENは、同年11月の東京コラボレーションにYESと言ってくれました。ほかにも、高円寺のバーが、サイドイベント用のスペースを無料で提供してくれました。

11. なぜ始めたかを忘れない

疑問と疲労とストレスの瞬間は、どんな人にも必ず来ます。中盤のチケット売上グラフが動かない日々、直前のバンドのドタキャン、反応のないプロモーション。。そういうとき、実際に築き上げてきたものに目を向けてみてください。音楽と大義のために集まるコミュニティ。東南アジアで実質的な活動を行う団体に確かに資金が届けてきた。信じてついて来てくれるボランティアクルー。「あるとき気づいた。自分はこのイベントに必要などの分野においても、一番才能がある人間ではない。でも、才能のある人たちを一か所に集める人間になれた。それで十分だった。」

2年間の数字

  • 8回の開催(メインショー7回+オープンマイク1回)
  • 計 33バンドがメインショーへ出演
  • 710枚のチケットを販売
  • 東南アジアの気候変動対策に計148万円を寄付
  • 支援国:ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア

次の章:2026年8月8日、鎌倉・材木座海岸でのビーチロックフェスティバル—THTBCとして初の屋外イベント。そして2026年11月14日、新宿MARZにて:Loud Women Fest Tokyo × Too Hot to Be Cool。100%女性・ノンバイナリー主導バンドによるロックフェスティバル、アジアの気候正義のための寄付を募る。

音楽の先にある意味

東南アジアは、気候変動の影響を最も深刻に受けている地域のひとつだ—海面上昇、激化する台風、食料安全保障を脅かす干ばつ。それでいながら、温暖化を引き起こしてきた先進国に比べ、排出責任ははるかに小さい。東京で集めた1円を、フィリピンやベトナムの草の根の若者団体に届けると、同じお金を日本国内で使うよりもずっと大きな効果を生みます。THTBCは本質的に、世界有数の豊かな都市から、そのお金が本当に必要とされている場所への資源移転です。

しかし、それだけではありません。これは「真のコミュニティ(同じ空間に集い、大切な何かのために共に声を上げる人々)」を築き、守ることには価値がある」というささやかな主張でもあります。アルゴリズムで最適化されたコンテンツやAI生成のものが溢れる世界において、土曜の夜に満員のライブハウスに身を置くことは、静かながらもラディカル(急進的)な体験と言えるでしょう。

あなたにできること。ご協力のお願い。

「Too Hot to Be Cool」は、チケットの売上と、ボランティアの皆さんの熱意だけで運営されています。ぜひ、以下の方法でご協力いただければ幸いです。

そしてもしこの記事を読んで、自分でも何かを始めてみたいと思われたなら—映画上映会でも、フードイベントでも、スポーツ大会でも、好きなことと大切な大義を組み合わせた、リアルな人が集まる何かでも—少しだけ「自分にもできるかも」と思ってもらえたなら嬉しいです。完璧な計画も、大きな予算も、特別な才能も要らない。必要なのは、アイデアと数人の友人、そして進めながら試行錯誤していく意志だけです。

Too Hot to Be Coolは、Studio Ichigoが主催する非営利の取り組みです。toohottobe.coolおよび@toohottobecool.tokyoでシリーズをフォロー・いいね・シェアお願いします。